マルチエアコンと言うと、多くは1台の室外機で2台以上の室内機を稼働させるエアコンを指すことが多いです。
マルチエアコンはオフィスビルや商業ビルに利用されることがほとんどです。しかし稀に、オシャレな雰囲気の住宅にも使われることがあります。
この記事を読み終わる頃にはマルチエアコンのメリット・デメリットがわかるようになります。
マルチエアコンの導入を考えている方や導入後のメンテナンスなどを必要としている方の一助になれば幸いです。
マルチエアコンとは?
「マルチエアコン」という文言は上記の通り「1台の室外機で2台以上の室内機と接続が可能なエアコン」を指すのによく使われます。特徴を上げると一般的なエアコンと比べて電気容量が少ない、ということが挙げられます。一般的なエアコンが1台15~20Aの電源を必要とするのに対しマルチエアコンは2~4部屋の冷暖房が20Aで済むのです。
さらにエアコン専用ブレーカーの個数を抑えられるという利点もあります。ブレーカーが落ちにくくなるうえに、アンペア契約もお得に済むのです。なので電気の基本料金を抑えながら複数の空調設備を備えたい場合には有効な選択肢として考えられます。
ちなみに一般的なエアコンは「セパレートエアコン」と呼びます。一般家庭などで採用されるタイプのエアコンです。1台の室外機に対し1台の壁掛け型室内機をつなぐオーソドックスな仕様のエアコンを指します。
マルチエアコンの仕組み
マルチエアコンの仕様
マルチエアコンは一般的に複数の室内機が親機と子機に分かれており親機が冷房なら子機もすべて冷房になる仕様になっています。これを冷暖同時と呼びます。
しかし中には接続している室内機をそれぞれ「独立したエアコン」として設定できるタイプのマルチエアコンも存在します。このタイプのマルチエアコンは室内機1台1台を個別の設定で稼働させることができます。
例えば一階にあるエアコン1は暖房、2階にあるエアコン2は冷房に設定が可能なのです。これを冷暖房フリーと呼びます。
マルチエアコンを家庭で導入する場合
家庭用のマルチエアコンは基本的に室外機に単相200V電源が必要になります。コンセントを使わず電源を室外機の端子台へ直に差し込む方式をとるケースが多いです。
この方式をとることにより室内機にコンセントが必要なくなるので見た目がスッキリとし、非常に美しくなります。電源の確保は室内機のそばにあるコンセントを200Vに変換した後、室外機まで延長するのが通例です。コンセントが無い場合は分電盤からエアコン専用の回路を室外機まで引くことになります。
さらに分電盤のブレーカーに空きが無ければブレーカーを増やす工事も必要です。また、電力会社との契約によっては200Vの電源が確保できないケースもあります。マルチエアコンを導入する前に確認が必要です。
マルチエアコンの室外機について
マルチエアコンの室外機は2台以上の室内機を接続していないと動作しないケースが多いです。また、マルチエアコンの室外機は通常のエアコンの室外機より大きくなる傾向にあります。
通常のエアコンは1台の室外機に対して1台の室内機を稼働するだけの馬力で足ります。
しかし、それに対してマルチエアコンの室外機は複数の室内機を稼働させるだけの馬力が必要とされます。この必要とされる馬力の大きさが室外機自体の大きさにも関わってくるのです。
もちろん室内機の数や部屋の数・広さによっても室外機の大きさは変わってきます。これからマルチエアコンを導入する方は室外機がどの程度の大きさになるか確認をしておきましょう。
マルチエアコンの室外機には2~7台の室内機が取付可能
マルチエアコンが1度に稼働できる室内機は、用途やメーカーにもよりますが5台までです。さらにワイドセレクトマルチであれば最大7台まで接続が可能となっています。ちなみにワイドセレクトマルチに対応しているのは今のところダイキンだけのようです。
どれだけの室内機を接続できるのかを、各メーカーごとにまとめました。結果は以下の通りです。
- 三菱電機
-
2~5台
- パナソニック
-
2~4台
- 日立
-
2~4台
- ダイキン
-
2~5台(ワイドセレクトマルチの場合7台)
マルチエアコンのメリット
購入費用が安い
マルチエアコンは購入費用が安いです。通常のエアコンの設置の仕方だと室外機が何台も必要になります。ですがマルチエアコンを導入すると室外機が一台で済みます。エアコンの設置にかかるコストを低くすることが可能になるのです。
すぐに室内が暖まる
マルチエアコンの場合、室内機が1台でも稼働している状態であれば、他の室内機を稼働させたらすぐに部屋が暖められるケースがあります。
理由は1台の室内機が動いていれば室外機が温まっているからです。
これはメーカーや室外機の種類にも左右されますが、大抵のエアコンは室外機が温まらないと温風が出せないのです。
マルチエアコンは1台の室内機が動いていれば他の室内機とつながっている室外機が稼働し温まった状態になります。その温まった状態で他の室内機を稼働するとスムーズに温風が出てくるというわけです。
いくつもの室内機を1台の室外機で動かしている効用と言えるでしょう。
室内機がおしゃれかつタイプを選べる
マルチエアコンで使用できる室内機には実に多種多様なタイプがあります。例えば壁掛け型・天井埋め込み型・壁埋め込み型・床置き型…など部屋の雰囲気や用途によって様々なタイプの室内機を設置することが可能です。
さらにマルチエアコンはこうした様々なタイプの室内機を組み合わせることができます。例えば洋室には壁掛け型を、和室には目立たない壁埋め込み型を設置する、ということも出来たりします。
室外機が1台なので省スペース
マルチエアコンは設置する室外機が1台だけです。そのおかげでベランダや庭のスペースが広がります。都会の込みあった住宅街や繁華街などでは室外機1台分のスペースも無駄にできません。
さらに室外機が1台だけだとお庭や建物の外観を美しく保てるという利点もあります。
例えば3台のエアコンを動かすとしましょう。普通のエアコンであれば幅1180mm×奥行539mmの室外機が3つ並びます。
しかし、マルチエアコンであれば幅1275mm×790mmの室外機が1台置かれるだけで済むのです。
(室外機の大きさの数値はパナソニック出典)
https://panasonic.jp/aircon/housing/mu.html
マルチエアコンのデメリット
複数の室内機を同時に稼働すると威力が落ちる
マルチエアコンは同時に複数台の室内機を稼働させることができます。しかし、能力が落ちてしまう傾向にあります。
マルチエアコンはいくつもの室内機を同時に使用していると運転能力が落ちる傾向にあります。1台しかない室外機に大きな負荷がかかるからです。
対策としては必要とされている性能よりワンランク上の性能を備えた室内機を用意する事です。そうすれば「なかなか快適な室温にならない!」ということにはなりません。
室外機が壊れると繋いでいるすべての室内機が動かない
マルチエアコンに限らずエアコンの室外機は室内にある熱を放出したり、室内へ熱を送り込んだりする重要な役割を担っています。室外機が故障などで動かなくなると当然その機能が失われます。なので室内機が正常に作動しなくなります。
なので建物全体の室内機を1台の室外機につないでいた場合、どの部屋のエアコンも稼働しなくなってしまいます。
真夏や真冬に「エアコンがきかない!」となると精神的にも肉体的にも大きなダメージを負いますよね…。特に真夏は危険です。炎天下でエアコンが使えないと熱中症になり救急搬送される可能性も上がります。
室外機が壊れないよう定期的なメンテナンスは欠かさず行いましょう。普段からもエアコンを酷使しないことが大切です。
電気使用料金が高くなる
マルチエアコンは通常のエアコンと比べると電気代が高くなります。これは省エネ基準達成率を比較するとわかります。
省エネ基準達成率とは、エアコンを含む省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)に基づいて定められた製品ごとに設定された省エネ性能の目標基準値をどの程度達成しているかを%で表したものです。数値が大きいほど省エネ性能が優れていることを意味し、電気料金も安くなります。
マルチエアコンの省エネ基準達成率は約100~107%です。それに対して通常のエアコンは約110~140%なのです。
近年は電気料金の観点に加えて、地球環境への配慮からも省エネ基準達成率を重要視する傾向が高まっています。マルチエアコンの機能性は上がってきています。省エネ基準達成率の改善も早くしてもらいたいところですね。
選べる機種が少ない
マルチエアコンは機種を選ぶ選択肢が少ないということもあります。限られたメーカーからしか発売されていないのです。導入時に様々なメーカーの中から性能や価格を比較し選定することができないのはデメリットになり得るかもしれません。
パッケージエアコン・ハウジングエアコンとの違いは?
パッケージエアコンのメリット・デメリット
パッケージエアコンとは業務用エアコンの1種を指します。中でも業務用のマルチエアコン『ビル用マルチ』と仕様が異なるものをパッケージエアコンと呼ぶことが多いようです。
パッケージエアコンはハウジングエアコンより馬力があるものが多く、小さめのオフィスなどによく利用されています。そして、マルチエアコンと比較すると電気工事の規模が小さく工数も少ないので施工費用が安いケースが多いです。
またパッケージエアコンはマルチエアコンと同様に室外機1台に対し複数の室内機を接続できるように作られています。その為マルチエアコンと混同されることがまれにありますが、施工の方法や稼働する仕組みなどが全く異なるタイプのエアコンです。
スイッチ1つですべての室内機が動く
パッケージエアコンは一つの電源で稼働します。なのでリモコンのスイッチ一つで全ての室内機を動かすことが可能です。広い部屋にいくつも室内機が設置されている場合には一々室内機の電源をつけてまわる必要が無いので便利ですね。
ちなみにパッケージエアコンのリモコンは、壁面に設置されているケースが多いです。ケーブルで室内ユニットへ接続して操作するワイヤードタイプが主流とされています。
すべての室内機の設定を同時にできる
パッケージエアコンはすべての室内機を同時に設定することができます。温度・風量をリモコンで一括に操作できるのです。工場や研究室といった室内の温度や湿度を均一に保つ必要がある施設ではかなり強力なプラス要素になります。
ただし裏を返せば部分的な空調調節はできない、ということでもあります。ここは25度に設定しあちらは27度に…という操作はできないのです。この辺りは把握しておいた方が良いでしょう。※メーカーによっては室内機ごとに設定できるタイプも存在します。
室内機を選べない
パッケージエアコンは室内機と室外機がセットで売られています。なので室外機と室内機の組み合わせを選ぶことができません。
そしてパッケージエアコンは室内機は全て同じものを揃えないといけないケースがとても多いです。場所によって室内機の形を選ぶということができないのですね。オシャレにこだわりたい人にはちょっと不向きかもしれません。
※ メーカーによっては個別に室内機を選べるタイプも存在します。
冷媒配管の自由度が低め
パッケージエアコンは冷媒配管の自由度がマルチエアコンに比べて低めです。冷媒配管とは空調配管の1種で熱を室内外に運搬させる配管を指します。
パッケージエアコンはこの冷媒配管が短いのですね。なので置き場所も限られる傾向にあります。その為、部屋の中で最も空調効率の良い場所に設置できないケースもあるのです。
ハウジングエアコンのメリット・デメリット
ハウジングエアコンは室内機の設置方法が特殊である家庭用エアコンを指します。一般的なエアコンと異なり、室内機を天井や壁に埋め込んだり床に置いたりすることができるエアコンのことです。
工事が簡単
ハウジングエアコンはマルチエアコンやパッケージエアコンと比較すると、工事が簡単な場合が多いです。短い期間で終わりますし、人手もかかりません。その為費用も安くすみますし、工事のスケジュール調整も簡単に行えます。
配管工事や電気工事も元々ある設備を使用できるのであれば全く行わずにすむケースもあるようです。
電気代が安い
ハウジングエアコンはパッケージエアコンやマルチエアコンより少ない電力で動く機種が多いです。
これら3種のエアコンに必要になる電力をわかりやすく表すとマルチエアコン>パッケージエアコン>ハウジングエアコンとなります。
なので電気の使用料はこの中でハウジングエアコンが一番安くなることが多いのです。
新規に導入のコストが高い
ハウジングエアコンのほとんどは配管を壁・天井に埋め込んで設置します。なので必然と新たにハウジングエアコンをつける場合は壁や天井に穴をあけることになります。
そして配管を壁や天井に張り巡らせ、その作業が終わったらまた壁や天井を築くという結構大掛かりな工事を行わなければなりません。
しかも建物の内部に触れる工事になるので施工を行える業者が限られてきます。依頼先を見つけるのにもちょっと苦労するかもしれません。
大きい施設はNG
ハウジングエアコンは大きな施設には向きません。
というのもハウジングエアコンはあくまで家庭用のエアコンであることが多いからです。ちょっと大きめの家屋であれば対応は可能かもしれませんが、大きめのオフィスになると完全に許容オーバーです。
効率よく空調管理ができなくなってしまうのでマルチエアコンかパッケージエアコンの利用を検討しましょう。
まとめ
今回はマルチエアコンについて解説しましたが、いかがだったでしょうか?
マルチエアコンについて理解を深めていただけていたら幸いです。
また、この記事では3種のエアコンの導入する際の目安として
マルチエアコン | 大きめのビル(3000m2以上) |
パッケージエアコン | 小さめのオフィスや工場など |
ハウジングエアコン | 一般家庭 |
としました。
しかし、これはあくまで目安であり建物の構造などによっては当てはまらないケースも存在します。
例えば、パッケージエアコンでも十分であるスペースの部屋にマルチエアコンを導入することも稀にあるのです。
この「この建物にはどのエアコンが相応しいか」の判断は専門の業者でないと正確に下せません。
マルチエアコンの導入をお考えの方はぜひ、弊社にお問い合わせください。誠心誠意の対応をさせていただきます!
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